批評家・加藤典洋氏の創作である。初出時(1991年春)には素通りしてしまったのだが、ある方のご好意によって再会することになった。思いがけずおもしろく読んだ。
イラク軍によるクウェート「侵攻」から多国籍軍による空爆の直前までに記された15歳の少年ハッサンの日記という体裁である。受験を控えた中学生が、父母と教師、マスメディア、弟と妹そして亡き兄の存在/非在のあいだを行きつ戻りつしながら、あの「聖戦」の意味を考えていく。ちょっと背伸びした生硬な語り口が、「盗んだバイクで走り出す」(©尾崎豊)のとはまたちがった、遠いバクダッドの空の下での「15の夜」を描き出している。
なかなか眠れない。もうじき午前三時。静かだ。
ザルゾウル(*)が、どこからか戻ってきた。(p.267)
- (*)引用者註――家に住みついた野良猫。
あれからハッサンはどうしただろうか。生きていればもうすぐ30になるはずだ。
なお、この珍しい作品は抄録ながら『日本の名随筆 昭和II』(別巻98、作品社、1999)でも読むことができる。
- 作者: 加藤典洋
- 出版社/メーカー: 作品社
- 発売日: 1999/04
- メディア: 単行本
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コメント
加藤氏の作品を読んだ訳では無いですけど、ザルゾウルという猫の名前が僕のハートに剛速球ど真ん中です!
キューンときます。それに佳品ですよ。