肉(より)棒

マは棒が好きである。

散歩中など、棒状のものが落ちているのを見つけるやいなや、その場で(文字どおり)狂喜乱舞する。

前にも書いたことだが、マは食が細い(*)。犬としてもう少しガツガツしてもらいたいところなのだが、食欲旺盛であったのは幼犬期のほんの一瞬だけであった。そのせいで、犬界の川原亜矢子と呼ばれるほどプロポーション抜群な犬になってしまった。

マは、棒さえあればごはんなどおかまいなしなのだ。肉より棒、というわけである。この世にはたくさんの棒状のものが存在するが、なかでもいちばんのお気に入りは折れた木の枝である。噛むのに心地よい硬さと軽さ、そして遊ぶのにほどよい形状の複雑さが、どうしようもなくマの心をとらえるのだろう。

いっしょに野川のほとりを歩いていると、突然気が違ったように走りだすことがある。見ると、落ちている木の枝に向かって突進しているのである。マの度重なる教示によってわたくしは、この世界にはなんと多くの棒状のものが存在することだろう、と目を見開かされた思いがする。

家のなかでも、どこからか見つけてきた(というかわたくしが買い与えているわけだが)棒状のおもちゃを口にくわえてやってきて、「棒ですよ! 棒ですよ!」と騒ぐ。

また、うっかり棒状のものを持とうものなら、「棒ですな! 棒ですな!」とばかりに襲いかかってくる。ヌンチャクの練習などもってのほかだ。マとの暮らしと引き換えにわたくしが手放したもの、それはヌンチャクの可能性をおいてほかにない。ヌンチャクだけは断念せざるをえない(じつはもともと一度もしたことなどなかったわけだが、しかし可能性が奪われたということには変わりがない。……と書きながら、妙にヌンチャクにひっぱられている自分に気づく。このままいくとおいしいところをすべてヌンチャクにもっていかれそうな気がする。この辺でやめておこう)。

マのはてなダイアリーには、きっと、棒のことがたくさん書いてあるにちがいない。

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