ルート・クリューガー追悼☆群像

文芸誌『群像』に随筆を寄せました。作家・ドイツ文学者ルート・クリューガーの追悼文です。

 好きな作家は? という難しい質問があります。なぜ難しいかといえば、尋ねてきた相手がどれだけ真剣に答えを聞く用意があるか、どれだけ時間を割くつもりがあるかを、ついつい訝ってしまうからです。ご挨拶として尋ねてみただけで、まともに話を聞く気などないのかもしれない。間違えると気まずい思いをする羽目になります。
 ただのご挨拶と思われる場合、私はトルストイと答えてきました。嘘ではないし、会話もすぐに終わります。実際のところ、たいていこのパターンで済みます。
 でも、本当はほかに挙げたい名前があります。相手が真剣に話を聞いてくれそうな場合や、始発までまだたっぷり時間があるという場合に。
 その作家がルート・クリューガーです。少なくとも日本ではそれほど名の知られた作家ではないために、バイオグラフィーの紹介から始めなければなりません。また、彼女の名を挙げる理由を説明するのにも骨が折れそうです。そういうわけで、いつかはと思いながら、これまで彼女についてなかなか語れずにきました。
 先日、そのルート・クリューガーが亡くなったという知らせが届きました。報道によれば、二〇二〇年一〇月五日夜から六日未明にかけ、カリフォルニア州の自宅で死去したとの由。八八歳でした(ウィーンAFP時事、二〇二〇年一〇月八日)。
 このたび『群像』編集者のM氏が、彼女についてなにか書いてみよと言ってくれました。その依頼に応じて書いたのがこの文章です。

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